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妻が「会社を辞めたい」と言い出したのは、ある年の春だった。
上司に退職を切り出した妻に返ってきたのは、「もう少しだけ待ってほしい」「その話はまた後日ね」という言葉だった。明確に止められたわけではない。ただ、のらりくらりと引き延ばされた。そして引き延ばされている間、妻は日に日に消耗していった。夫である私は、それを隣で見ているしかなかった。
結論から言う。あのとき妻は、もっと早く辞めるべきだった。引き延ばしに付き合った時間は、妻にとって何ひとつ良いものを生まなかった。この記事は、当時の私たちと同じように「辞めたいのに、待ってと言われて辞められない」状況にいる人と、その人を見守る家族に向けて書いている。
「もう少し待って」の正体は、会社の時間稼ぎだった
当時、妻の会社は業績の先行きが怪しく、人がぽつぽつ辞め始めていた。そして妻の退職を引き延ばした上司は、抜擢されたばかりの若い管理職だった。高学歴で頭が切れ、プレイヤーとしては優秀な人だったが、マネジメントの経験は浅かった。だからこそ、部下の退職という場面でも、本人に寄り添うより「とりあえず引き延ばす」対応になってしまったのだと思う。
あとから振り返ると、あの「もう少し待って」は、妻のための言葉ではなかったと思う。人が次々に抜けていく中で、少しでも流出を遅らせたい——その時間稼ぎだったのだろう。退職を引き延ばす引き止めには、こういう「会社側の都合」が隠れていることがある。
ここを勘違いしてはいけない。「待ってほしい」と引き延ばすのは、必ずしもあなたが必要だからではない。辞められると会社が困るタイミングだから、引き延ばしているだけのことがある。だとしたら、その引き延ばしに付き合う義理はない。
引き延ばされている間に、人は静かに削られていく
「後日ね」と先送りされるたびに、妻はまた次の出社日を迎えなければならなかった。辞めると決めた職場に通い続けるのは、想像以上にきつい。気持ちはもう外を向いているのに、体だけは毎朝そこへ運ばれていく。
表情が減り、口数が減り、休みの日も会社のことを考えて気が休まらない。隣で見ていて、はっきりと分かった。引き延ばされている時間は、本人を少しずつ削っていく。早く区切りをつけることが、何よりの治療だった。
退職は労働者の権利だ。期間の定めのない雇用なら、退職の意思表示から2週間で辞められる(民法627条)。「待って」と言われても、本来こちらが待つ義務はない。それでも、目の前で「待って」と頼まれると、優しい人ほど断れない。妻もそうだった。
「自分の口で何度も言う」のが、いちばんの壁
一度引き延ばされると、次に切り出すハードルはさらに上がる。「この前も言ったのに」と思われるのが怖くて、また言い出せなくなる。退職を伝えるという行為そのものが、繰り返すほど重くなっていく。
私自身、ADHDの特性で「その場で人の要求を断る」のが極端に苦手だ。相手の感情に飲まれて、つい「分かりました」と言ってしまう。妻は私とはタイプが違うが、それでも上司に何度も向き合って交渉し続けるのは、相当な消耗だった。
だから思う。辞めると決めたなら、その「伝える・交渉する」という最も苦しい部分は、もう自分で抱え込まなくていい。
引き延ばされずに辞める方法=第三者に任せる
退職代行を使えば、引き止めや引き延ばしの場に、本人が立たなくて済む。会社への連絡はすべて代行業者が行い、原則その日から出社せずに退職へ進める。「もう一度あの上司に言う」という最大のハードルが消える。
当時こういうサービスを知っていれば、妻にすすめていたと思う。状況別に、現実的な選択肢を挙げておく。
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「辞めたら世帯の収入が減る」という不安について
正直に書くと、妻の退職をすぐに後押しできなかった理由のひとつは、お金だった。私には500万円の借金がある。妻が辞めれば世帯の収入は減る。「今辞められると返済が苦しくなる」という不安が、頭の片隅にあったのは事実だ。
でも、冷静に考えれば順番が逆だった。心身を壊してから辞めることになれば、その後しばらく働けなくなる。失う収入はそちらの方がずっと大きい。お金の不安で退職を引き延ばすのは、たいてい割に合わない。
もし借金や返済が理由で辞められないなら、退職と並行して返済そのものを軽くする方法もある。お金がない人ほど後払い対応のサービスが現実的になる点はお金がないときの退職代行に書いた。返済が回らないなら、無料相談で減額できる可能性を知っておくだけでも、判断がしやすくなる。
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大切な人が「待って」と引き延ばされているなら
あのとき隣で見ていて、いちばん辛かったのは、本人がどんどん削られていくのに、それを止められないことだった。「待って」に付き合っているうちに、人は静かに限界へ近づいていく。
引き延ばしは、あなた(や、あなたの大切な人)のための時間ではないかもしれない。辞めると決めたなら、その実行だけは誰かに任せてしまっていい。半年後に「あのとき動いてよかった」と思える方を、選んでほしい。
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